トップページへ戻る      このページの内容は、ハルさんから提供していただきました。(2001年4月公開)

男性の性被害について

2001.2.21 ハル

◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆

わたしことハルは、男性サバイバーです。
ここに書いたことは、自分の快復のために学んできたことを、あるミーティングでお話ししたものです。

ですから内容はわたし個人の偏った経験にもとづく知識であると思います。また、内容も箇条書きにしてあるので、分かりにくいかもしれません。

わたしが、みなさんに、もっともおすすめしたいのは、サバイバーやその家族やサポーター(援助者)などが、それぞれの経験や気持ちをともに語り合うことです。
ともに語り合うことで、孤独感も解消されるし、サポートも生まれてくるし、快復にもつながります。

そういうわけで、わたしもまたここで、男性サバイバーのみなさんやその身近な人とつながりたいと思って、このサイトで自分の考えを公開することにしました。

注意:ここでは、サバイバーという言葉は性被害者を指します。男性サバイバーは男性の性被害者を指しています。

◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 お互いの気持ちを語りを合うことは、実はそんなに簡単なことではないと思います。ですから話すときは、互いに批判し合ったり、議論になったり、相手を黙らせようとプレッシャーをかけたりしないようにしましょう。まずは自分の思いを語り、それをお互いに受け止めましょう。お互いの気持ちに傾聴し合あいましょう。その時、話せることを話したいだけ話すようにしましょう。もう話しをそれ以上聴けなくなったときは、お互いに話しを中断しましょう。ともにつらい思いをしてきたのですから、その思いを互いにわかちあってみましょう。
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◆◆


T   被害を意識化できない男性サバイバー、信じてもらえない男性サバイバー
  一般に、男性は性被害にあっても、「男性は強くあるべきだ」という社会の男性観がじゃまになって、被害にあったことを自ら意識化することが難しい。
一般社会は「男性が性被害にあうわけがない」「かりに被害にあっても傷つくはずがない」と考えている。
社会の中に男性もまた性虐待や性被害にあうことがあるという情報が浸透していないために、自分が性虐待や性被害にあったことを認識できない。
かりに誰かに相談することができても、周囲の人が被害にあったことをまったく信じない。
「男性=加害者、女性=被害者」という社会的な思い込みが、男性サバイバーの話しを信じるための障害になっている。
男性の性被害を「いたずら」「冗談」「あそびやいじめの延長」「男ならみんな経験すること」と軽視する。
男性サバイバー自身が「おとこらしさ」の幻想にとらわれたり羞恥心から、事実を否認している。
日本には男性サバイバーのためのサポートもほとんどないし、男性の性被害について適切な知識を持っている専門職も少ない。

以上のような理由で、女性以上に孤立し、羞恥心・罪悪感・自責感にとらわれ、相談できないで一人でかかえこむこともある。

  性暴力に理解ない一般男性のなかには、男性もまた性被害にあうという事実を知ると、女性の被害だけをことさらに取り上げるのは不公平であるなどとして、男性サバイバーの存在を女性に対する暴力問題の重要性を減殺することに利用する人がいますが、そのようなかたちで男性サバイバーの存在を利用しないでください。 女性に対する性暴力も、男性に対する性暴力も、ひとしく世界が力を合わせて取り組まなければならない課題です。
  フェミニストや女性サポーターのなかには、男性の性被害者が存在することや、女性が加害者になることについて信じない人がいます。しかし男性も性被害にあうことや女性の加害者もいることを知ることで、よりよく性暴力について理解できることもあります。
  男性→男性の性被害を、同性愛者(ゲイ)に対するバッシングや批判の材料に使わないで下さい。性的な行為に関しては、異性愛者であろうと同性愛者であろうと、お互いの合意を尊重するのは当然だと思います。
  99年と2000年は、男性サバイバーとパートナーにとって、なにかしら新しい動きのある年でした。 たとえば、インターネットやホームページでの被害のカムアウト(告白)、ネット上で仮想‘自助グループ’ができたり、ミニコミ誌、講演など。
     
U   男性の性被害を視野に入れた「性暴力」「性虐待」の定義
  【従来の定義】性差にもとづく暴力・虐待 (男性から女性への暴力・虐待)
  【新しい定義】相手を性的に傷つけ支配する暴力・虐待 (性差・異性愛・同性愛を問わない)
  1の定義はこれまで広く受け入れられている定義で、いうまでもなく男性の性被害を含んでいません。
2が男性の性被害も視野に入れた定義です。
2のように定義すると、被害者が女性とか男性とかを問う必要性がなくなります。
また、加害者についても、男性とか女性とかに関係なく性暴力を定義できます。
さらに、異性愛者であるとか、同性愛者であるとかも無関係に、性暴力ということばを定義できます。
     
V   男性の性被害を視野に入れた「レイプ」の定義
  【従来の定義】婚姻・恋愛関係にない女性に対し、暴力や脅しによって抗拒不能にし、coitus(膣への挿入)を行う。
  【新しい定義】次のような合意のない性行為。
  a. バギナル・インターコース(膣への挿入)
  b. オーラル・セックス(口を使った性的行為)
  c. アナル・セックス(肛門性交)。肛門への異物挿入を含めることもある。
  恋人・配偶者間・売春婦・売春夫・男性に対してもレイプは成立する。
  1の定義は古くからの定義でレイプということばを狭く定義しています。1はいうまでもなく男性がレイプされることを想定していません。

2が男性に対するレイプ(メイル・レイプ:Male Rape)を視野に入れた定義です。メイル・レイプは、上記のごとく a、b、c の3種があります。

それかから、2では「合意がない」という点がポイントになっていますが、さらにAには本人が望むか望まないか分からないような「発達上の不適切な性的行為」(子どもに対する性虐待など)もふくみます。つまり、子どもや未成年者がセックスや性的行為について一見合意したように見えても、それはほんとうの意味での合意ではないのです。

aのような女性によるレイプ・性虐待は、下記『スクール・セクシャル・ハラスメント』に複数の事例が見えているように、成人女性による男児へのレイプが理解しやすいと思います。

近年、欧米では2のようなメイル・レイプの定義を採用することが多くなっています。
アメリカは州ごとに法律が異なりますが、通報のあるレイプのうち、5〜10%が男性が被害者であるそうです。

日本でも、法律の改正を求めたいものです。

     
W   調査と事例
    1994年「(財)日本性教育協会」。女子は55%が、男子は19%が何らかの性被害を受けた。
    1999年『「子どもと家族の心と健康」調査報告書』(日本性科学情報センター)。18歳までに女性は39%が、男性は10%が、何らかの被害を受けている。
    1998年の沖縄の調査『心への侵入』(本の時遊社)。女子大学生490人のうち約80%が、男子大学生256人のうち約28%が何らかの性被害を受けたと回答。
    法務総合研究所『研究部報告第11号』児童虐待に関する研究(第1報告)2001年」同研究所が平成12年に少年院在院者を対象に実施した被害経験に関する調査。少年院の男子と女子へのそれぞれの性被害の調査がある。
    アメリカでは、女子27%、男子16%が何らかの被害という調査もある。(1989年、Dr.ディビッット・フィンケルホー他、18歳以上の男女半数ずつ、計2626人、電話による長時間インタビュー調査)
     
  男児への性虐待:上記の調査に見るように、女子よりは少ないものの、男子もなんらかの性的被害(言葉や視線によるものもふくむ)を受けていることは明らかです。
  成人男性への性暴力や高齢者の男性への性的虐待:男の子の被害が多いものの、成人や高齢者の男性も性的な侵害をうけることがあります。
  支配と屈辱が目的の性的いじめ:『心への侵入』36頁に「絶望の瞬間男にも」として、集団で1人の学生を押さえ込んで、性器を露出させ、射精させることを何度も繰り返しておこなっている事例が見えます(沖縄タイムスのHPでも見られる)。他に性器をなめさせる、パンツを脱がせるなど。いじめのなかには、相手に屈辱を与える目的で、性的に痛めつけるケースがあります。
  女性教師による男子生徒のレイプ:門野晴子『スクール・セクシャル・ハラスメント』(学陽書房)に多数の事例が見える。
  男性間セクハラ訴訟(福岡):西日本新聞2000年11月10日付朝刊、朝日新聞・2000年11月10日付夕刊。男性→男性のセクハラの事例です。
  男の子の裸の画像多数をネットに掲載した巡査を逮捕:朝日新聞2001年1月24日
  母親のセックスを繰り返し見せられて女性恐怖症に:相部和男『非行の火種は3歳に始まる』(PHP文庫)
  刑務所で起きるメイル・レイプ →「Stop Prisoner Rape」http://www.spr.org/
     
  上記の調査で、男児がうけた「何らかの性被害」とは、たとえば下記のようなケースをいいます。もちろんこれら以外のケースもあります。みな子どもへの性虐待・性的虐待になる可能性があります。
   ・不快感を覚える性的な言葉を受けた。
   ・入浴中にのぞかれた。
   ・ポルノ写真などを、意に反して見せられた。
   ・裸や下着の写真をとられた。
   ・性器をわざと見せつけられた。
   ・他人の性交を見せられた。
   ・抱きつかれた。
   ・無理矢理にキスされた。
   ・お尻や胸などを触られた。
   ・性器を触られた。
   ・他人の性器を触らされたり、性器をこすりつけられた。
   ・チカンにあった。
   ・ストーカー被害。
   ・女装を強要された。
   ・子ども(未成年者)を対象にした売春や援助交際。
   ・性的いじめにあった(‘パンツ下ろし’‘解剖’、自慰・勃起・射精の強要、肛門に指や
    異物を入れられたなど)。
   ・マスターベーション(自慰)を強要された。
   ・他人のマスターベーションを見せられたり、手伝わされた。
   ・射精を強要された、あるは意に反して見られたり、見せつけられた。
   ・排尿や排泄を強要・禁止された、あるいは意に反して見られたり、見せつけられた。
   ・オーラル・セックスやアナル・セックスをされそうになった、あるいはされた。
   ・意に反して、女性と性交(コイタス)されそうになった、あるいはされた。

※これ以外にも、必要な性知識を教えられなかったというのも、ネグレクトの一種になると思います。

★何をされたかのみを問題にするのではなく、本人が「どのように、どのくらい傷ついているのか」に注意するようにしてください。

     
X   加害者
  米の調査(上記) : 女子の被害者のうち、加害者が男性のケースは98%
           :男子の被害者のうち、加害者が男性のケースは83%。
            男性被害者の24%が女性が加害者であるという報告もある(アメリカ、1984年)。
  東京都幼稚園・小・中・高・心障性教育研究会編『児童・生徒の性』(1996年度版、学校図書)には、性加害体験のある男子中学生は10.6%、性加害体験のある女子中学生は5%とある。性加害体験の内容は相手の胸や尻に触る、写真や絵を見せる、性的な「いたずら」をしたなど。
  加害者は男性が多い。すなわち、男性は女性に対しても男性に対しても抑圧していることを反省してほしい。
  加害者には、男性もいるし、女性もいます。女性が加害者のケースは下記の参考文献4と9を参照。
小学生であっても加害者になることがある。
子ども(未成年者)同士の性暴力もある。
年齢の低い者が、年長者に性被害を与えることもある。
  加害男性には、異性愛者も、同性愛者もいます。
加害者が異性愛者のばあい、その動機は性的な衝動からというよりも、被害者を傷つけ支配し屈服させることが目的であることもあります(例えば性的いじめ)。
     
Y   メイル・レイプ・ビクティム(Male Rape Victim)
    メイル・レイプ(male rape:男性に対するレイプ)に関しては、ビクティム(犠牲者)が遭遇した事件以上に、周囲の人の反応が重要になる。
サポーターの言ったことやしたことによって、ビクティムの回復は助長されたり、遅れたりする。
もし、サポーターがビクティムが合意していた考えると、もっともサポートが必要な時期にビクティムは離れていってしまうかも知れない。
また将来的には、リカバーを遅らすことになるし、互いの人間関係にもヒビをもたらすかもしれない。
     
Z.   男性サバイバーに特有ないくつかのこと
  「男性は性被害を受けることはない」「仮に受けても傷つきはしない」というのは、誤った情報です。実際に、男性も性虐待や性暴力の被害にあっているし、傷ついている者がいることは、上記で説明してきたとおり。
  「男子は自分の身を守れなければならない」という社会の規範が、男性が性被害を相談することを難しくしている。また、周囲が弱い男と見なすのも誤りである。
  【Male Sexual abuse / Male on Male Rape】
男性→男性の被害は、同性愛とは関係がない。
被害者は周囲から同性愛者と見られることを恐れることもある。または自分が同性愛者だからは被害を受けたと考えたり、これからは同性愛者として生きるしかないと考えたりすることもある。

被害者がゲイ(同性愛者)の場合は、ゲイだから被害を受けてしまったと自分を責めてしまうことがある。ゲイのコミュニティーでもデート・レイプ(デートをするような間柄でおきるレイプ)は起きる。

一方で、セクシャリティーが揺れ、サバイバーが自分の性的方向性を確かめるたくなる時もあり、そのようなサポートが必要になることもある。

  【Female Sexual abuse / Female on Male Rape】
女性が加害者の場合は、被害体験を心と体を犯した暴力とはなかなか認識できないことがある。サバイバーは自分の真の感情に気づく必要がある。

世間のありふれた教えは女性とのいかなるセックスでもラッキーと教えているために、男児や男性が女性から性被害を受けたことを意識化しにくくしている。

しかもそれに加えて、しばしば、男性加害者が行使する力が腕力なら、女性加害者が行使する力は、侵入的で見えにくい支配である。

男性が性欲を利用されて女性から支配されると、若者ほど性的欲求で身動き出来なくなってしまうことがある。また、他人に性的欲求を乱用されると、あたかも自分の体が心を裏切っているように感じて混乱することもある。

但し、「性の手ほどき」として良い体験だったと考える男性もいる。

  男性サバイバーには、内へ向かう攻撃性(ウツ、再被害、摂食障害、自傷、自殺)と、外へ向かう攻撃性(動物虐待、性的加害、暴力、いじめ、放火、子ども・優しい大人・援助者・恋人をコントロールしようとする)を示す人もいます。
  性的には、極度に抑制されたもしくは強迫的な性衝動(セックスを極端に避けたり、逆に依存したりすること)。性的不能(勃起不全、ED、インポテンツ)に陥ることもある。
  自分は恋愛や結婚をする価値がない人間だと考える男性がいる一方で、自慰やセックスにのめり込むこともある。
男性として性的魅力がないなどのコンプレックスに悩むこともある。
  いうまでもなく、男性サバイバーも一般サバイバーと同じように、自分を汚いとか無価値だとと思い込む、自分を責める、自尊感情の低下、性的なコンプレックス(劣等感)、自己コントロール感の欠如、他人を信頼しにくい、誰にも話せない苦しみ、やり場のない怒り、PTSDなどの問題を抱えているものです。
  男性サバイバーがサポートやセラピーを求めるようになったら、それはとても良いことだと励ますようにしよう(良いセラピストは探す必要がある)。だが、その一方で、日本でも男性サバイバーのための良質のサポート(電話相談、セラピスト、自助グループ、男性の性被害に関する知識の普及など)をつくってゆくことが急務です。
     
[.   男性サバイバーをサポートするために
  サバイバーを信じる。(男性サバイバーにとっても信じてもらうことは特に大事)
  サバイバーに「あなたは悪くない」ことを伝えよう。
  サバイバーに「あなたは独りではない」ことを伝えよう。
  男性サバイバーはこんな話しをして悪いなとか、気持ち悪く思われているのではないかと不安に思っているので、「話を聞かせてもらって良かった」「性的な話題も不快に思っていない」と伝えよう。
  自分の傷つきを語ることは恥ずかしいことや弱点をさらすことではなく、勇気ある行為であることを伝えよう。
  男性に対する性被害についての知識を伝えよう。さらに、男性に対する性虐待やレイプもまた暴力であることを理解できるように手助けしよう。
  男性からのレイプは同性愛とは関係ないし、ゲイになってしまうということもないことを伝えよう。また、被害者がゲイである場合は、ゲイであるから被害を受けたわけではないことを理解できるようにしよう。 サポーターは同性愛への偏見を除いておくことがのぞましい。
  レイプや性的虐待は、彼のセクシャリティー・性的な行動・性的指向性にたいし、なんら影響を与えないことを理解できるように手助けしよう。逆に、サバイバーが自分の性的指向性を確かめたいと考えるときは、その手助けとなるようなサポートをしよう。
  女性が加害者の場合、サバイバー本人が真の自分の気持ちに気づくのが難しくなることがある。サポーターは女性による支配は腕力によらないだけに、被害に気づきにくいことを理解しておこう。サバイバーが自分の気持ちが分からずに迷っているときは、サポーターは待つように。
  10 サバイバーの男らしさを疑っていないこと、被害を受けても彼の男らしさに変わりがないことを伝えよう。
  11 男性のエレクト(勃起)や射精は、屈辱・羞恥・混乱・格闘中など、いかなる状況でも起きることを理解できるように手助けしよう。エレクト(勃起)や射精があったことが、ただちに合意のしるしとはならない。このことは女性の援助者のみならず、男性もまた理解しにくいことかもしれないので、よく知っておいてください。
  12 男性サバイバーが、将来、かならず他の男性や女性や子どもに暴力を振るったり性的虐待をするようになるというのは、誤った情報です。そのようなケースもありますが、すべての男性サバイバーが加害者になるわけではありません。
  13 サバイバーが自分の感じている疑問を問えるように手助けしよう。事実は何かを直視できるように手助けしよう。彼が頼んだのではないこと、彼が楽しんだのではないこと、同意しなかったことを理解できるように援助しよう。
  14 男性サバイバーの話しを聴いたときに、それをジョークや笑いのタネにしない、また、本人の前で気持ち悪がったりしないこと。
  15 ケガと性病のケアをすすめよう。被害を受けた部位によっては、口、陰部、肛門なども性病の検査が必要になる。また、成人男性が被害者のばあいは、女性や男児のばあいよりも、よりシリアスな外傷や打撲を受ける可能性が高い。頭と内臓にダメージを受けていないかどうかも尋ねておくように。
  16 男性の性被害についての知識や上記のようなメッセージを、彼の家族や恋人・友人・教師などにも広めよう。男性の性被害について周囲が理解することが、よりよいサポートになる。
  17 サポーターがホモフォビック(同性愛への憎悪)な考えやメイル・レイプについての誤った考えを持っていないこと、さまざまなバイアスの人を非難したりしないことは大切。また、サバイバーが抱く様々な疑問を解消できるように協力しよう。
     
\.   セラピー(カウンセラー、精神科医、心療内科医)について 
注意:下記はあくまで個人的な経験で書いたので、全ての人に通じる内容かどうかは分かりません。
  良いセラピストの援助を受けることは、しばしばたいへん有効です。良いセラピストは、あなたの大きな力になってくれることでしょう。また、EMDRや薬物療法やアートセラピーなど、専門職ならではの治療方法もあります。

しかし、自分にあったセラピストに出会うには、やはりそれなりに努力が必要だと思います。日本では男性サバイバーに理解あるセラピストは多くないように思います。でも、あきらめる必要はありません。

良いセラピストを選ぶために、電話で問い合わせる、試しに直接会って話してみる、さらに2、3人と面接してみるなどして、十分に下調べしてから長期的な支援を得るようにしましょう。もちろん、女性サバイバーを診た経験のあるセラピストに会って知りたいことをなど聞いてみるのもいいと思います。

個人的には、良いセラピストを探すには、やっぱり‘口コミ’が現時点では良いと思います。サバイバーやサポート団体や自助グループなどに問い合わせてみましょう。ただし、2001現在、男性サバイバーのためのサポート団体も自助グループもないので、従来からある女性サバイバーのための団体や女性センター、相談電話などを利用するしかないようです。

2001年現在、性被害の男性サバイバーに関する専門職向けの書も学術論文もない日本の絶望的な現況では、最初から男性の性被害に熟達したセラピストを探すのは難しいと思います(外国語の文献は何種類かあります)。

わたしの場合は、5人ほどのセラピストと話しをしました。みっちりしたセラピーは受けませんでしたが、多少なりとも男性サバイバーの援助の経験がある人か、経験がなくても真剣に考えたり新たに男性の性被害について勉強をしてくれるセラピストでした。日本には男性サバイバー援助の専門知識をもったセラピストがほとんどいないため、海外のカウンセラーからも話しを聞ききました。

  カウンセラーや精神科医の専門分野は人それぞれなので、性的虐待や性暴力に詳しい専門職を選びましょう。もしくは、あなたを尊重してくれて、勉強熱心で男性の性被害についても積極的に取り組んでくれる人ならいいと思います。

最初に電話をかけて、自分が望むサービスが受けられるかどうかを確認するほうがいいです。もし電話でしゃべることがつらいのならば、紙に書いて持って行くとか、ファクスや信頼できる人にかわりに問い合わせてもらうという方法もあります。

  ただし、セラピストを選ぶよりも、ともかく誰でもいいので何らかの援助を求めることが最優先課題だという危機的状況であることもあります。わたしの場合も、どんなセラピストかを下調べする余裕もなく、とにかく出会った最初のセラピストに話しを聞いてもらうことからスタートしました。どのような形にしろ援助を得た方がいいという場合もあります。
  費用についても、あらかじめ健康保険が適用されるかどうか、なんらかの福祉制度による援助が使えるかどうかを尋ねてみましょう。セラピーってけっこう高いからね。

ちなみに、臨床心理士(カウンセラー)の場合は、1時間、5千円から1万円くらいでしょう。スクール・カウンセラーや公立の機関のなかには、無料やより低額なケースもあるようです。週1回、定期的に通うケースが多いようです。もちろん1回だけでもかまいません。

精神科や心療内科は、原則として健康保険がききます。外来診察だとじゅうぶんな診察時間がとれないこともあるようです。

睡眠薬や安定剤などのお薬を出してくれるのは、精神科や心療内科です。PTSDの主症状に効くというSSRIなどのお薬もありますし、ウツやパニックに効くお薬もあるので、いっぺん相談してみると良いと思います。積極的にお薬を服用したほうがいい時もあるんですよ。

最近は、EMDRという治療法がかなりの効果をあげているようです。また、TFTという治療方も副作用が少なく効果があるようですよ。

  数ヶ月通ってみて、どうも適当ではないと感じたら、担当を替えてもらったり他所に移ることもよいと思います。
  専門職を名乗る人の中にはサバイバー問題に詳しくない人もおり、平気でサバイバーを傷つける言葉を言ったり、自分が学んだ理論にあてはめて解釈するような有害な人も少なくありません。

もっとも困ることは、男性性被害者を「性的搾取」する悪質なセラピストがいることです。もし専門職から性的搾取やセクハラや性的な誘いかけをされたら、ただちにそのセラピーに通うことを止めましょう。
可能なら、事情をメモするなど証拠をそろえて、そのセラピストが所属する認可団体に告発しましょう。
もちろん性的搾取やセクハラは犯罪ですから、警察に告発することも出来ます。あなたが未成年なら児童相談所に訴えることもできます。
ただし、認可団体や警察があなたの訴えを信じないかもしれないので慎重にしましょう。
判断力の低下している男性性被害者の弱みにつけ込んだり、セラピーの力関係を利用してだまして性的搾取することは、絶対に許せません。
このような専門職による性的搾取やセクハラ問題は対策が進んでいないので、カウンセラーや精神科医の団体はガイドラインや相談窓口を設置するなど、クライアントが安心してセラピーを受けられるように至急対策を整えてください。

  回復の主人公はあくまでも私自身であることを忘れないようにしましょう。これはとてもたいせつなことです。先生は支援はしてくれるけど、治してはくれないものね。
  セラピストを選ぶ指針として「良きカウンセラーとは」(エレン・バス他『生きる勇気と癒す力』)を引用しておきます。
  • あなたの体験や痛みを軽視しない。
  • 子どもの頃性的虐待を受けた女性の癒しについて全般的な知識をもっている(または進んで情報を得る気がある)
  • 焦点を、加害者でなくあなたに当てる。
  • 自分の過去を模索する余地をあなた自身に与える。勝手に人の過去を決めつけない。
  • 和解や許しを押しつけない。
  • カウンセリングの外での交友を求めない。
  • 自分の個人的な問題を語らない。
  • 今も将来もあなたと性的関係を持とうとしない。
  • 哀しみ、怒り、憤怒、悲哀、絶望、喜びなど、さまざまな感情を大切にする。
  • あなたが望まないことをけっして強いない。(ただし、自殺指向が強かったり、人を傷つけると脅迫している場合は別)
  • セラピーのほかにサポート関係を作ることを薦める。
  • 子どもの頃に性的虐待を受けた他のサバイバーとの出会いを薦める。
  • 自分をケアする方法を教える。
  • セラピー関係の中で起きてくる問題を進んで話し合う。
  • 自分が起こした過ちに責任を持つ。

できたら、男性の性的な課題(セックス、自慰、性機能障害、ゲイや性転換など各種セクシャリティ、セクシャル・ファンタジー、加害性など)についても真摯な理解ができるセラピストがよりベストだと思います。また、アルコール依存症や摂食障害や自殺企画に詳しいセラピストががいいというサバイバーもいると思いますし、女性のカウンセラーの方が話しやすいという人や、男性のセラピストが良いと感じる人もいると思いますから、自己の希望に合わせて探してみましょう。

  セラピストの選び方は次の本も見てください。
 エレン・バス他『生きる勇気と癒す力』(三一書房)の338ページからの「カウンセリング」
 日本臨床心理士会偏『臨床心理士に出会うには』創元社
     
].   参考文献&インターネット
  Abused Boys : The Neglected Victims of Sexual Abuse,
 Mic Hunter, Fawcett Books, 1990. 性虐待を受けた男性のために
  Victims No Longer : Men Recovering from Incest and Other Sexual Child Abuse,
 Mike Lew & Ellen Bass, Harper Collins, 1988. インセストや性虐待の男性のために
  Male on Male Rape : The Hidden Toll of Stigma and Shame,
 Michael Scarce, Plenum Press, 1997. 男性による男性へのレイプ
  Female Sexual Abuse of Children, Michele Elliott Ed, Guilford Press, 1993.
 女性による性虐待や性的侵害
  If He is Raped: A Guidebook for Partners, Spouses, Parents and Friends,
 Alan McEvoy etc, Learning Publications, 1999.
 主に男→男の性暴力を受けた男性をサポートする配偶者・恋人・家族・友人のために。
  Betrayed as Boys, Richard B. Gartner, The Guilfoed Press, 1999。
男性性被害者を援助する専門職(セラピスト)向けの一冊。
  森田ゆり『子どもと暴力』岩波書店、1999年、146〜157頁。
 わずか数頁だが、男子への性虐待に関し一般人を対象とした日本語の文章としてはほと
 んど唯一だろう。
  「British Columbia Society for Male Survivors of Sexual Abuse」(BCSMSSA)
 URL http://vcn.bc.ca/bcsmssa1/home.htm
  Faye Honey Knopp and Lois B. Lackey : Safer Society Press (The Safer Society Program, P. O. Box 340, Brandon, VT 05733)  女性加害者に関する統計。
  Yahooなどの英文の検索エンジンを使って、male rape、male survivorなどのキーワードで検索すると、上記以外にも各種情報が出てきます。

◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

トップページへ戻る

 

 

 

 

 

inserted by FC2 system