私見:セラピストを選ぶには

2005年1月  くろたけ


 

私の経験から、男性サバイバーを診てくれる精神科医、カウンセラー、セラピスト(以下、セラピストと総称)の探し方を書いてみました。
といっても私の経験は、2箇所でカウンセリングを受けたにすぎませんので、それほど詳しく正解に知っているわけではありません。
カウンセリング自体は、幸いなことにどちらのカウンセラーも男性性被害に十分な知識があり、良い結果が出ました。

下記に、サバイバーの方や、ご家族の方の参考になる箇所があれば幸いです。
ただ、あくまでも私の個人的な体験であることを、重ねて断っておきます。
またセラピストのご紹介も、一番下に記した以上のことはできず、問い合わせなどには応じられませんので、ご了承ください。

なお、セラピーは個人によって体験が異なることもあるし、最終的にはセラピストとクライアント(サバイバー)との相性の問題もあるので、セラピーにかかるかどうかは、かならず自分で判断して下さい。

なお、下記は2005年現在の社会状況をもとに書きました。時代とともに変化して行く内容もあると思います。


★性被害に通じたカウンセラーの選び方については、『生きる勇気と癒す力』(三一書房)338頁以下が、もっとも基本になるので、まずは同書を手にとってみてください。復刻交渉中の本なので、お持ちでない方は、図書館で借りて下さい。


★現在の日本では、サバイバーを支援できるセラピストは、女性サバイバーの場合であってもけっして多くないと思います。そのため、男性サバイバーを診てくれるセラピストを探すとなると、一層難しくなります。
ただ、年々、少しずつですが、状況が良くなっていることは間違いありません。
私の知る範囲で、日本の男性サバイバーを診た経験のあるセラピスト数人に尋ねたところ、それぞれ数人から10人程度男性サバイバーを診ていました。

★リソース(サポートのための社会的情報や援助)の貧困な日本の現状では、「あきらめずに理解してくれる人に出会えるまで探す」ことが大切です。

★それから、まずはともかく、性虐待、セクシャル・アビューズ(以下、SAと略称)の知識のあるセラピストを選ぶのが無難だと思います。なんだかんだといっても、セラピストにSAの基本知識がなければ、より適切で専門的なセラピーへは進めませんからね。

★SAの知識のないセラピストは、無害であればまだいいのですが(それでも料金は払わなくてはなりませんが)、きわめて有害になることがあるので注意しましょう。セラピーの前に、サバイバーを何人診たかとか、どんな講座や本で学んだかを尋ねてみましょう。

★精神科は薬を出してくれますし、入院もできます。不眠や鬱状態などの時は、お薬を飲んだほうが、あきらかに良い時があります。また入院したほうが良いときもあります。精神科ではカウンセリングのようにじっくり話を聴いてもらえることが少ないないようです。『精神保健福祉法第32条』(通院医療費公費負担制度)や、入院の場合の医療費が安くなる制度もあるので、病院で尋ねてください。どういうわけか、クライアント(患者)から尋ねないと教えてくれない病院がいまだにあります。 (追記)『精神保健福祉法第32条』は、障害者自立支援法の施行とともに変更・廃止されたようです。詳しくは役所に尋ねて下さい。

臨床心理士やカウンセラーは、普通はお薬は出ませんが、60分とか90分とかじっくりと話を聴いてくれます。料金は様々ですが、1時間5千〜9千円くらいでしょうか。

EMDRやFAP、アートセラピー、無意識や変性意識を使用した心理療法など、トラウマに効く療法も最近注目を集めています。

★生活費がなくて困っている時は、生活保護を受けて医療機関にかかることもできます。生活保護が適用となると、医療費は医療扶助から支払われるため自己負担なしに必要な医療を受けることができます。詳しくは、関係の役所で尋ねて下さい。役所に申請に行ってもすぐに制度の内容が飲み込めないことがあるので、インターネットや本などで適用の条件や申請のポイントなど調べたり、ソーシャルワーカーに相談してみるのもいいでしょう。

★セラピストを探す時は、女性サバイバーを10人以上診ている人を目安に探すといいと思います。もしくは、男性サバイバーを診た経験がなくても、まじめに男性性被害を勉強しようとしているセラピストを目安に探すといいでしょう。

★セラピスト探すには、やはり、「口コミ」が一番信頼できます。身近にいるSAに詳しい人やサポート団体、サバイバー、虐待防止の活動をしている人や団体などに尋ねてみて下さい。

★わたしのサイトで紹介している「男性サバイバーに役立つ文献」の書籍の巻末に、相談機関などのリストがあるので、それを見て連絡してみましょう。たとえば、『性暴力を生き抜いた少年と男性の癒しのガイド』の巻末参照。

★その次は、クリッニクや精神科に直接に電話をするのが手早いと思います。電話で、男性サバイバーを診てくれますかと率直に尋ねてみたらいいと思います。
他に、相談電話や女性センター(男女共同参画センター)などに電話をしてみるのも良いと思いますが、所によっては、セラピスト個人を紹介できないと言われることもあります。そんなときは、どうやって探したらいいか尋ねてるのもいいと思います。

★診察に行ってみて、男性サバイバーを診た経験がないというセラピストには、英語の男性サバイバーに関する本やリストを持っていって、男性サバイバーのセラピーについて学んでほしいいと伝えるといいでしょう。次のアメリカのサイトもたいへん情報が充実しているので、セラピストにも勧めています。英語の専門書の代表的なものも、おおむねこのサイトに載っています(2004年現在)。
  Male Survivor:
http://www.malesurvivor.org/

★セラピストに勉強して欲しいというのは、怖れ多くてできないとか、専門職のプライドを傷つけそうで言えないと感じる方もいると思いますが、しかし真に優良で誠実なセラピストであれば、逆に、新しいことを学べる機会を喜んでくれるはずです。
カウンセリングは、なによりもクライアント(サバイバー)のためにあるのであり、サバイバーに最大にして最良の利益をもたらす目的でおこなわれますから、こういう要望をすることは不適切なことではないと思います。だからといって、偉そうに横柄に頼むことは良くありませんけどね。(^_^)

クライアントの要望に誠実に応じたり、新しいことを積極的に学ぶ姿勢は、SAを専門とするセラピストの重要な資質です。
ただ、セラピストによっては、クライアントをたくさん抱えていてこれ以上は対応できないとか、SAは専門外のために、カウンセリングを断られたり、他の機関を紹介されることもあります。

★もしカウンセリングを引き受けてもらえない場合は、とりあず次の機関かセラピストを紹介してもらうか、当面あなたが自身ができることについて助言してもらうといいでしょう。継続的なカウンセリングが不可能であっても、1回のカウンセリングが役立つこともあります。

★精神科医やカウンセラーなどセラピストはそれぞれ専門分野や得意とする分野があるので、病院やクリニックで探すよりも、SAに通じているセラピスト「個人」を探すようにするのが良いと思います。

★なによりも援助のリソースは、「求めないと、生まれてこない」ので、忍耐が必要ですけど、まずは男性サバイバーたちがセラピストのドアをノックしてみるしかありませんね。

★セラピーの理想としては、互いの信頼関係が築けて、最終的になんでもセラピストと話せるようになれるといいなと思います。私の経験では、セラピストの前で、男性サバイバーが心からしみじみと「泣ける」ようになれば、セラピーも順調に進んでいるという1つの目安になると思います。私にとって、泣けるようになることと、怒りを正しく表現できるようになることは、快復の重要な1つのステップでした。

★電話相談やホットラインを利用する時の注意として、男性サバイバーの相談が、セックス通話(テレフォン・セックス)と勘違いされることがあるので、利用する側は心得ておいたほうがいいでしょう。
いのちの電話などをテレフォンセックス代わりに利用する不埒な一般男性がいて、相談員も困っているようです。
現在のところ、日本の電話相談員は、男性サバイバーからの相談と、セックス通話(テレフォンセックス)を聞き分ける訓練を受けていないので、男性サバイバーが傷ついてしまうことがあります。
女性サバイバーからの相談がセックス通話と間違われる心配はないので、これなどは男女のサバイバーの支援のあり方で異なっている点の一つですね。
なお、男性サバイバーに理解ある電話相談員もいますので、1箇所でダメだったときは、別のサポート先を探してみるか、探すことを一休みして休養を取りましょう。

※電話による性被害相談とセックス通話との聞き分け方は、岩崎直子「男性の性被害とジェンダー」(宮地尚子編著『トラウマとジェンダー』金剛出版)を見よ。

★日本でも男性サバイバーを性的搾取するセラピスト、つまりセラピーを悪用してクライアントと性交渉を持とうとする悪質なセラピストや補導員などがいます。
セラピーはセラピストと性的な接触を持つ場ではないし、また許可なくサバイバーの身体に触れてくるセラピストには注意すべきです。
こういうセラピストは、「これが性被害の一般的な治療なんだ」「セックスの練習をしてみようか」「君はほんとうはゲイなんだよ、だからここでぼくと試してみよう」「女性から触られて傷つくのは、君がゲイだからだ」「君には元々男性を引きつける魅力があるからだ」などといってだましてくることがあります。
もし、セラピーで性的被害を受けたら、その病院やクリニック、警察、学会などに通報しましょう。
通報することもたいへんな時期だと思いますが、次の被害者を出さないためにも、まずは通報だけしておくことが役立ちます。辛い時期は、通報だけしておくだけで充分です。

★加害者に治療費を請求できる場合もあるので、かならず診察費やカウンセリングの領収書をもらっておきましょう。

★セラピーやカウンセリングと同様に重要なのが、同じ被害者が集まる自助グループです。参加やグループを作るには、それなりの時期などもありますが、回復の重要なリソースであることにはかわりありません。日本でも男性サバイバーのためのいろいろなグループができることを願って止みません。グループの作り方は、このサイトで紹介している文献などに出ています。

★私の経験では、関西では次の機関で、サバイバーのカウンセリングを受け付けてくれます。ただし、すぐにカウンセリングを受けられるとは限りません。女性のみというところもあれば、情報提供や紹介にとどまるところもあります。
  ・女性ライフサイクル研究所(FLC)(大阪、京都)
    
http://www.flcflc.com/
  ・こころのケア研究所(兵庫)(財団法人
21世紀ヒューマンケア研究機構内)
    
http://www.21human.jp/sosiki.files/sosiki.html
    
http://www.21human.jp/kokoro/kokoro.html
  ・ウイメンズカウンセリング京都
    
http://web.kyoto-inet.or.jp/org/w-c-k/

★関東以北の状況については知らないので、とりあえず下記のクリニックで情報をもらうように言っています。ただし、男性性被害について理解かどうか知りませんので、その点をご注意下さい。
関東での自助ミーティングに来て下さると参加メンバーから口コミでより確かな情報が得られることがあります。
  ・家族機能研究所
   
http://www.iff.or.jp/
  ・IFF

   http://www.iff.co.jp/index.html
  ・また、関東方面を調べるためには、JUSTさんのリンクのお世話になっています。

 


 

 

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