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すいれん創刊号


水蓮は、おそらく、日本ではじめての男性サバイバーのミニコミです。発行は不定期です。

水蓮の編集者の水生さんに許可をいただいて、創刊号(2000年2月号)を記載します。男性サバイバーについて、よく理解できる内容です。

それから、水蓮では、原稿の書き手と購読者を募集しています。
連絡先は、このサイトの管理者の
くろたけ(玄武)までお願いします。折り返しご返事を差し上げます。


水蓮 2000年2月号

今回は、男性のサバイバーの身の回りにどのようなことが生ずるかについて話題を提供します。
カナダのブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市にある男性サバイバー専門の治療援助機関「VSMSSA」を研修で訪問してきましたので、VSMSSAの設立者のドンさんから伝えていただいた内容を中心にお伝えします。

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カナダでの研修報告

  性的虐待の男性サバイバーは実際には多くいる。サバイバーの25%が男性であるという調査もあり、しかしサバイバーは被害を報告しないため認識されないともいわれている。

  一般的に社会では男性の性的役割として、男性は強くて弱みを見せず、自分をコントロールでき自分の感情は内に秘めていることが期待されている。男性が表現することが許されている唯一の感情は怒りである。

また、性の問題についても自分でコントロールし、攻撃的であることが期待される。例えば、デートは男が誘い、性的なことについては男性が主導権をとり女性は待つ側であることが期待される。

文化的にはこのような役割期待は改善されてきているが、意識下ではこのような考え方に支配されている。

  そのため男性サバイバーは、被害は自分で防げたはずだと思ってしまい、性的虐待の被害を語ることは自分で自分をコントロールできなく、本当の男でないことを認めることになってしまう。

自分をサバイバー=弱いものとして認めたがらず、被害体験を思い出すことはそれにまつわる心地よくない感情が起こってくるので、男性サバイバーは虐待被害の記憶そのものを抑圧し、被害体験を大人になるまで隠し続ける。

  記憶を抑圧するための対処方法としてアルコールや薬物を使用する人も多く、摂食障害、性的逸脱行動などを生じていることもあり、男性サバイバーが被害体験と向き合い治療を受けるのは、皮肉にもアルコールや薬物中毒などになってからである。

治療においては、当初アルコールや薬物の問題が表面化するが、これらの外面的な症状が回復し出すと根底にある性的虐待の問題が浮かび上がってきて、そこから回復がはじまる。

  また、男性サバイバーにはこのような薬物依存がなくても人を信用することができず、耐え難い孤独感を味わっていたり、他人と対立や衝突をおこして短期間で関係が終了してしまうという人間関係での障害が生ずることも多い。

また、対人関係においては境界線が確保しにくく、他人に近づこうとしないことや、逆に他人に虐待されたり搾取されるような位置に身を置いたりする人も多い。

  さらに実際の確率とは異なるものの、自分が加害者になることを恐れて親になれないというサバイバーもいる。仕事で感情をコントロールできず、自分の解決すべき課題に取り組まず、職場の不平を問題にして出勤しなかったり仕事が長続きしなかったり、権威を持っている人とうまくやっていけないというサバイバーもいる。

  サバイバーにとって被害が生ずることを望んでいなかったとしても肉体的興奮を感じることはある。サバイバーは自分を同性愛者だと思ってしまい、また、他人に自分が同性愛者ではないかと疑われることを恐れていることも多い。

また、自分の体験を虐待と思えないことも多い。加害者はサバイバーに責任があるような言い方をするためにサバイバーは混乱してしまう。

  また、加害者と偶然出会ってしまって怒りや虐待された記憶がよみがえって援助を求める人もいる。また、どこか調子が悪いといった健康面の問題があったり、虐待を受けた記憶を持ち続けて記憶に耐えられず援助を求めるサバイバーもいる。

  しかし男性サバイバーは治療につながったとしても、加害者が自分の世話をする役割の人であったため、似た役割を持つセラピストを信用できなかったり、セラピストに力を感じてしまったりなど困難を伴う。

また、男性サバイバーは心を開かねばならないという感情と、男として自分をコントロールしなければならないという意識との葛藤を感じることも多い。

そのため治療を中断してしまうサバイバーも多い。また、サバイバーは貧困で悩んでいることもある。

  多くのサバイバーは治療を拒否するため、来訪してくれたこと自体に希望がもてる。「ここに来たことは本当に勇気のあることです」などと動機づけを高める。

治療の中断を防ぐためには問題を正常化し、男性サバイバーによくありがちなことや治療の過程で起こりうることを「・・・かもしれませんが、それはよくあることで悪いことではないですよ」などとあらかじめサバイバーに伝えておくことが必要である。

そうすることによりサバイバーは自分に思い当たるところがあるので来てよかった思うようになる。また、セッションを続けると感情が吹き出すことがあるかもしれないが、それは健康で意味のあることであり、感情を表現できるのはむしろ安全なところに居るからである。

  また、男性サバイバーは自分が状況をコントロールできなかったことに恥や罪悪感を持ちがちだが、恥や罪悪感を本来持つべき加害者に返すために、セラピーの中ではサバイバーがいかに自分を守ろうとして抵抗できたかを確認していく。

1999年8月 VSMSSAにて  ドンさん、ありがとうございました。

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当会「水蓮」の主旨

  これまで性的虐待のサバイバーの被害は、女性のみが被害にあうものと信じられてきましたが、女性でなくても性侵害や性虐待の被害にあうことはあります。
この事実は私たちの個人的経験からは明らかなのですが、社会はこの事実をなかなか受け入れようとはしません。
そのため、サバイバーは、被害の事実を打ち明けることも難しいし、被害に対する適切なサポートもほとんどないのが実状です。
  この会は、男性サバイバーをはじめとして、女性でもない男性でもないサバイバーのための交流の窓口として、とりあえずミニコミを発行して情報を交換することから始めました。
ゆくゆくは、差し障りのない範囲で、お会いしてお話をしたりする機会も考えています。
もちろん女性のサバイバーの方からの連絡も歓迎します。
  これからもよろしくお願いします。  (水生晴湖 みずお せいこ) 

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