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男性サバイバーに役立つ文献

このサイトを開設したころ(2001年)は、男性(少年)性被害について日本語で読める専門書はまったくなく大変苦労しました。しかし今(2005年)では、専門的な論文、翻訳書、男性性被害を視野に入れたサバイバー向けの本、男の子を性被害から守る絵本なども出版されるようになり、状況はすっかり好転しました。

すぐに快復に役立つ本を探しているならば、研究書よりも、下記で癒しのガイドブック」と紹介している本を、まず手にしたほうがよいでしょう。

女性サバイバー向けの本であっても、男性について部分的な言及であったりする本でも、性被害からの回復の基本は一緒なので、十分に役に立ちます。知識を得ることは、回復の一つの力となります。工夫して使いましょう。

それから、自分の子ども(男児)が被害にあったがどう対応したら良いか分からないというご両親や、逆に親に守ってもらえなかったという少年(男性)の声をたびたび聴いてきました。下記では、被害にあった男の子を持つ親に向けての本も紹介しています。絵本の中にも快復に役立つものがあります。

また、サバイバーのパートナー・配偶者・恋人のための本も出ています。

洋書については、1988年にアメリカで少年への性虐待をテーマとした専門書が出版されて以来、いろいろな書籍があるので、ハルさんページの「参考文献」やリンク内の英語のサイトをみてください。また、「Male Survivor」というサイト内の「book store」をクリックすると、男性サバイバーに関する主要な本がすべて一覧され、しかもそのまま購入の手続きもできて便利です。

グループ・ウィズネス編著『性暴力を生き抜いた少年と男性の癒しのガイド』明石書店、2005年7月、1500円+税、200頁。
男性サバイバーに向けて書かれた「癒しのガイドブック」です。快復について、ポジティブで明るい希望を与えてくれる本です。「性暴力について知ろう」「男性が性被害を受けるということ」「性暴力を生きる力に変える」「未来へ」の4章からなっています。内容も男性性被害についての間違った思いこみ(偏見)を正すことからはじまり、実践的ですぐに役立てることができるアイデアなども載っています。ことば使いも分かりやすく、10代の少年にも役立つでしょう。本書は「性虐待を生きる力に変えて」と副題が付けられたリーズの中の第6巻です。同シリーズには、小さな男の子を対象とした第2巻や、パートナーのためのガイドも含んでいるので、広く役立てることができると思います。 各巻の書名は下記のとおり。定価はそれぞれ千円台です。

第1巻『親と教師のためのガイド―子どもの性的行動・きょうだい間の性虐待
第2巻『小さな女の子・男の子のためのガイド 
巻『10代の少女のためのガイド』 
第4巻『子どものころに性虐待を受けた女性のためのガイド 』
第5巻『子どものころに性虐待を受けた人のパートナーのためのガイド』

森田ゆり『癒しのエンパワメント』築地書館、2002年、2000円+税、232頁。
サバイバーに向けて書かれた実践的な「癒しのガイド・ブック」。性虐待の心の傷からの快復について、腹式呼吸をはじめとする身体を使ったワーク(実践的な方法)を紹介しながら、サバイバーの癒しの旅について述べています。男性性被害者も視野に入れて書かれており、お奨めの一冊です。経済的理由や地方にいて、良いセラピストを見つけられない方にもきっと役に立ちます。下記の『生きる勇気と癒す力』とともに参考にしてください。
エレン・バス/ローラ・デイビス共著、原美奈子/二見れい子共訳『生きる勇気と癒す力』三一書房、1997年、5500円+税。
あまりに有名なセクシャル・アビューズ(性的虐待)を経験した女性のための「癒しのガイドブック」。サバイバーのバイブルとまで言われています。女性を対象にしていますが、男性にもたいへんよく役立ちます。わたしもこの本のおかげで快復したといってもいいほどです。原題は‘The Courage to Heal’、出版社は Harper collins最近(2001年)は書店で入手不可なので、図書館で借りるか、三一書房労働組合:電話03(3812)3132に電話注文してください(注;2007年に復刊し、入手可)。それから、この本の前半部分については、2人の著者みずからが英語で吹き込んだカセットテープがあり、視覚障害の方にも役立つと思います(カセットを入手したい方は、洋書を扱っているサイトで、原題で検索して下さい)。
J.サツーロ、R.ラッセル、P.ブラッドウェイ・著、三輪妙子・訳田上時子・解説『男の子を性被害から守る本』 築地書館、1000円、2004年。
男の子も性被害にあうことは、ぜひとも少年や保護者や教師に知らせておきたい大切なことです。この本は、イラストを交えながら、男の子が性被害にあわないためには、どうしたらいいか、あってしまったらどうしたらいいかについて書かれています。64頁と薄く、子どもと大人が一緒に読めるのが良い。米国のレイプ救援センターのスタッフによる本。他の子どもを性暴力から守る絵本も参考にして下さい。
森田ゆり著『新・子どもの虐待』岩波書店、2004年、580、岩波ブックレットNO.385。
薄い本ですが、情報が盛りだくさんです。虐待された子どもに接する親や教師の方は一読を! 被害にあった子どもに対応するために、同書で紹介されている‘緊急カウンセリング’(77ページ〜)を覚えておいてほしいです。
森田ゆり『子どもへの性的虐待』岩波新書、2008年、740円。
著者の長年にわたる性的虐待にかんする所説がまとまっており、大いに推薦します。男性性被害への言及もあります。
窪田容子・村本邦子『子どもが被害にあったとき』三学出版、2001年、952円。
子どもが被害にあったときは、この1冊を手にしてください。平明に書かれていて、良書です。親が子どもに掛ける「ことばがけ」の具体例が載っていて、親にはたいへん参考になると思います。子どもが被害にあったときは、『新・子どもの虐待』『男の子を性被害から守る本』 『ライオンさんに話そう』『傷ついた子供の心の癒し方』なども参照。
シンシア・モナハン著、青木薫訳『傷ついた子供の心の癒し方』講談社ブルーバックス、1995年、1140円+税。
トラウマを負った子供を育てている親にぜひとも薦めたい一冊。家族や大人が傷ついた子供にどのように手を差し伸べたら良いかが、平易なことばで書かれている。翻訳も読みやすい。男の子が性被害に遭ったときにも、一読を奨めます。ただ、「性的いらずら」という訳語は今では適当ではないと思います。
ローラ・デイビス著、麻鳥澄江・鈴木隆文訳『もしも大切な人が子どもの頃に性虐待にあっていたら〜ともに眠り、とにも笑う〜』青木書店、2004年、2700円
サバイバーのパートナー(配偶者や恋人)のための一冊。上記の『生きる勇気と癒す力』がサバイバーのバイブルならば、この本はまさしくパートナーのバイブルともいうべき素晴らしい1冊。前半はパートナーからのさまざまな質問に答えるという形式、後半はパートナーによる8つの手記から成っています。原書を見ると男性サバイバーの事例が豊富に含まれてることがわかります。つまり、この本は、男性サバイバーのパートナー(妻、恋人)にも、男性の同性愛やセクシャルマイノリティのカップルにも役立ちます。副題の「ともに眠り、ともに笑う」も、サバイバーとのパートナーシップのありかたをよく象徴していて素敵だと思います。
リチャード・B・ガートナー著『少年への性的虐待〜男性被害者の心的外傷と精神分析治療〜』作品社、本体3,800円、2005年、494頁。
2005年現在、日本語で読める少年(男性)性被害をテーマにしたもっとも本格的な本です。著者はアメリカの精神科医で、38人の男性被害者の症例をもとに、その心の傷と治療について書かれています。本文だけで400ページを越えており、かなりの分量があります。どちらかと言えば、研究書でしょう。
アンデシュ・ニューマン& ベリエ・スヴェンソン著、太田 美幸訳『性的虐待を受けた少年たち―ボーイズ・クリニックの治療記録』新評論、2008年、2,625 円(税込)、302頁ISBN-10: 4794807570
スウェーデンで1990年に設立された「ボーイズ・クリニック」は、性的虐待を受けた少年のための治療機関で、世界でも比較的早期に設立された機関です。本書はボーイズ・クリニックの約10年間にわたる治療の記録。
著者のアンデシュ・ニューマンは、児童心理学者・心理療法士、ベリエ・スヴェンソンはソーシャルワーカー・心理療法士です。
ジュディス・L・ハーマン著『心的外傷と回復』みすず書房、1996年、6600円。
心的外傷(トラウマ)について書かれたきわめて専門的で、かつ有名な一冊。トラウマからの回復は可能で、回復は「安全」「想起と服喪追悼」「再結合」のステップを経て行われる。ページ数も多い、研究書。
さいふうめい・著、浅野なお・イラスト『誰にも言えない〜サバイバー〜』NHK中学生日記 1 、日本放送出版協会、2007年3月。
2006年、NHK教育のテレビドラマ「中学生日記」が、少年への性的虐待を取り上げ、反響を呼んだ作品をコミック化したもの。中学生の少年が野球部のコーチから性暴力を受けるストーリー。放映直後から、NHKの掲示板が記録的なアクセス数を記録した。
岩崎直子著「男性の性被害とジェンダー」(『トラウマとジェンダー』金剛出版、65頁〜)。
男性性被害について包括的に書かれている。岩崎氏による2本目の論文です。なかでも電話相談員向けに書かれた、電話による性被害相談とセックス通話(テレフォンセックス)との聞き分け方(74頁)は、日本で類書がなく貴重です。実際に性被害にあった少年(男性)の相談が、いたずらで掛けてくるテレフォンセックスと混同されることは、被害者にとって辛いことです。
岩崎直子著「男性が受ける性的被害をめぐる諸問題」、『こころの健康』第16巻・第2号(2001年11月)所収。論文です。はおそらく日本で初めての男性の性被害をあつかった記念碑的な学術論文です。当サイトでもWEBバージョンを公開させていただいています。
森田ゆり著『子どもと暴力』岩波書店、1999年、1800円+税。
149〜157ページに男子の性被害についての記載があります。わずか数ページの内容ですが、わかりやすく貴重です。わたしが男性性被害についての情報を必死で探し始めた当初、日本語で読める解説はこれしかありませんでした。
田上時子『知っていますか? 子どもの性的虐待 一問一答』解放出版、2001年、1000円+税。
子どもへの性虐待が、わかりやすい一問一答の形式で書かれいる。ページ数も多くなく手頃なので、はじめて性虐待という問題に直面した家族、友人、当事者にもお勧めできると思います。ほかにも、田上さんは、幼い子どもをケアするための絵本『ライオンさんに話そう』『わたしのからだよ!』も訳出しています(当サイトの「男の子を性被害から守る絵本」を見よ)。絵本の中にも、大人のサバイバーの心を癒してくれる本があります。
性暴力を許さない女の会編著『サバイバーズハンドブック---性暴力被害回復への手がかり』新水社、初版1999年、改訂版2002年、1400円+税。
警察・法律・裁判の対応が詳しいて、親切。女性のための本だが、男性サバイバーが法律・警察を利用する際にも、もっとも役立つ実践的な一冊。購入するときは、改訂版を買うように。
ステイシー・ヘインズ『性的虐待を受けた人のポジティブ・セックス・ガイド』明石書店、2001年、2500円。
女性サバイバーのための性的な癒しについての本。男性サバイバーにも参考になるかも。内容は多岐にわたる。『生きる勇気と癒す力』(三一書房)の‘セックス’(256ページ〜)もあわせて参照せよ。
藤井 ひろみほか『医療・看護スタッフのためのLGBTIサポートブック』メディカ出版、2007年、¥ 2,310
セクシャルマイノリティの支援のために読んでほしい一冊。
クレア・バーク・ドラッカー著、北山秋雄/石井絵里子共訳『子どもの性的虐待サバイバー---癒しのためのカウンセリング技法』 現代書館、1997年、2500円+税。
カウンセラーのための本ですが、女性・男性を問わずサバイバー自身が読んでも回復の諸段階についてなにかと示唆が得られると思います。男性サバイバー特有の課題についてもページ数は多くないものの、20カ所あまりで言及されています。下記のコラム参照。
吉岡隆・高畠克子編『性依存--その理解と回復--』中央法規、2001年、2400+税。
性依存の理解と回復、および当事者や家族の手記が豊富に載っています。とりわけ一連の手記にはたいへん感心しました。サバイバーも、性被害の後遺症として性依存に陥ることがあり、それについての言及が第4節にあります。日本の性依存の自助グループも紹介されています。わたしもかつてこのグループに参加しようと考えたことがありますが、加害者と同席したら困るなあと思い断念しました。日本でも、サバイバーのみを対象とした安全な性依存の自助グループが必要だとわたしは感じています。ただし、アメリカでは、加害者と被害者が性依存のグループに一緒に参加することは良い効果が期待できるとする見解が示されていますが、それはサバイバーの快復がある程度進んでからでないと無理だろうと思います。
スティーヴン・J・ウォーリン&シビル・ウォーリン著、奧野光&小森康永訳『サバイバーと心の回復力〜逆境を乗り越えるための7つのリジリアンス〜』金剛出版、2002年、284頁、4200円。
問題の多い家庭内で育った人々の回復について、前向きに書かれている。サバイバーの強さと勇気と希望に焦点があてられていることが、うれしい。副題のリジシアンスはなじみのない言葉だけど、心の弾性とか回復力の意。翻訳文は、不安定な精神を抱えているサバイバーのために、もっとこなれた自然な日本語にしてほしい。
性的虐待サバイバー援助者のためのカナダ・バンクーバー研修・2000夏・参加者の会編著『カナダ研修2000』 2001年4月、資料代1000円。
この書のなかで約22ページにわたって「男性サバイバーへのカウンセリング」があります。内容はカナダの援助機関の方のレクチャーです。
またカナダの加害者治療の事例として、「アボッツフォード・コミュニティー・サービスにおける性的犯罪者の加害者治療について」という簡要な記事もあります。
萩尾望都『残酷な神が支配する』16巻まで刊行、小学館 1993〜2001年、各巻486〜505円。
マンガです。作者の萩尾望都さんは女性ですが、まるで男性の被害を身をもって体験した人のような語り口で描いています。初出誌『プチフラワー』1992年7月号〜。フラッシュバック注意! アウィズムさん推奨。

 

その他(加害者など)

谷口玲著『少年愛者』つげ書房新書、2003年、1600円。
これまで実態の分かりにくかった「少年愛者」について、各分野に取材しながら迫った本。批判的な立場からバランス良く書かれていると思います。男性性被害にも一定の理解があります。詳細は下記URLを見てください。
 http://member.nifty.ne.jp/gun-shindoji/TOP.html

 

★★★ コラム ★★★

※2002年頃書いたものですが、すでに古くなりましたね。

上で紹介したクレア・バーク・ドラッカー『子どもの性的虐待サバイバー』は全書が男性サバイバーに役立ちますが、なかでもくろたけの印象に残った男性サバイバーに関する記述に下記のような箇所がありました。あくまでわたし個人の感じ方なので、皆さまでそれぞれにお読みください。

  • 18〜19ページ「カウンセラーの性別」「クライエントの性別」:男性のカウンセラーを選ぶのがいいのか、女性のカウンセラーを選ぶのがいいのか?
  • 19ページ「同性による性的虐待」:‘男性による男性の性的虐待のもっとも大きな影響は性的同一性の混乱である’とある。なっとく!
  • 21ぺージ「女性による虐待」:男性被害者の24%が女性が加害者という報告もある(1984年)。‘女性から虐待を受けたサバイバーにどのようなカウンセリングが必要かについて未だ明らかになっていない’とあるけど、この記述、なんか、悲しくない?
  • 30〜31ページ「男性サバイバーを理解するための枠組み」:男性サバイバーに特有な9つの要素が紹介されている。男性は自分の被虐待体験をなかなか開示しにくいなど。(39ページも参照)
  • 75〜76ページ「他人に対する攻撃性」:怒りを開示するときは、その怒りが他人(加害者など)を攻撃する可能性がどのくらいあるかをあらかじめ評価しなければならない。
  • 88ページ「虐待時における性的反応」:虐待時に性的な快感や興奮があっても虐待を楽しんだのではない!
  • 145〜147ページ「性機能」「男性サバイバーとセクシャリティ」
  • 150〜154ページ「加害者としてのサバイバー」:加害体験もある男女のサバイバーについて。被害と加害の両方を振り返るときの注意点。
  • 233ページ「郵送されない手紙」:男性サバイバーからアビューザー(加害者)の母に向けての手紙。読み終わってみて、う〜ん、この手紙、わかりやすいわ〜!

 

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